短篇集
東京&ロスでレコーディングされた2年半ぶりのオリジナル・アルバム。瀬尾一三を音楽プロデューサー兼アレンジャーに迎え、自作ナンバーの音楽世界をさらに堪能できる内容をものにした。 中島みゆきの歌が単なる“フラれ歌”にとどまらない秘密は冷徹な目にある。フラれてイジイジしている自分を歌っているようでいて、その実、そんな女の子を冷静に見つめる彼女の視線が感じられる。傷ついた心を赤裸々に吐露している歌と受け止めるだけでは、あまりにも単純すぎる。進むことも帰ることもできず、ただ途方に暮れるしかない人生の一瞬を失恋という事象に託して歌っているのだ。11篇のショート・ストーリーで構成された『短篇集』にはまさに人生の片々がちりばめられ、ストーリーテラーとしての才がいかんなく発揮されている。彼女はまるで男の子のようにはにかみ、テレる。その中性的な視点が、たとえば(2)をただの“人生の応援歌”に終わらせず、(9)をそれでもなお生きていかなければならない“辛さ”を感じさせる世界にまで昇華させた。そして見事に歌いあげている。この人の凄みは本物だ。それはシンガーとかソングライターとかいったレベルを超えた、存在そのものの凄みなのだ。 新レコード会社移籍後初のオリジナルアルバム。ミキシングエンジニアにデビット・ソナー、ジョー・チカレリ。マスタリングにトム・ベイカーらを迎え、ロサンゼルス、東京でレコーディング。1は、NHK「プロジェクトX 挑戦者たち」主題歌。11は、同番組のエンディグテーマ。2は、由紀さおり&安田祥子への提供曲(Al.『歌・うた・唄Vol.5/あしたの思い出』収録)。